■句読点戦争■
吉田くんと平野くんの間に戦争が勃発しました。
俗に言う「句読点戦争」です
戦争と言うと大げさに聞こえますが、本当は単なる喧嘩です。
「、」と「,」のどちらが好みか、または「。」「.」のどちらが好みか。
たったそれだけの理由で起きた単なる喧嘩です。
僕のところにメールで届いた2人の言い分を紹介します。
吉田くんの言い分
「平野くんの文って、読みづらいと思うんだよね。ムカつく。」
平野くんの言い分
「吉田くんの文って,読みづらいと思うんだよね.ムカつく.」
ご覧のとおり、吉田くんは「、。」派で平野くんは「,.」派です。
文章構成的に見るとまったく同じで、一見仲良くなれそうな2人ですが、
実際は会えば必ず言い争いをしています。
僕としては早くこの句読点戦争に終止符を打ってもらいたいところです。
しかしその終止符も「。」にするか「.」にするかで意見が分かれてしまいます。
ちなみに「句読点戦争」というのは吉田くん側の呼び方で、
平野くんは「ピリオドコンマ戦争」と呼んでいます。
■ストロー■
お店でジュースを頼んだら、曲がらないストローがついてきました。
まさかと思い確認しました。
曲がらないストローです。
念のためもう一度確認しました。
やはり曲がらないストローです。
しかし果たして本当に曲がらないストローなのでしょうか。
じっと見つめます。
なんだか曲がりそうなストローに見えてきました。
さらに見つめます。
曲がってくれそうなストローに見えてきました。
気のせいか、曲がりたがっているストローにも見えてきました。
もはや確信です。
今にも曲がりそうなストローです。
気迫さえ感じます。
今この瞬間にも曲がらんとせんばかりのストローです。
強引に曲げてみました。
曲げちゃいけないストローでした。
今日の登場人物
・僕
今日の登場ストロー
・曲がらないストロー
・曲がりそうなストロー(曲がらないストローの別名)
・曲がってくれそうなストロー(曲がらないストローの別名)
・曲がりたがっているストロー(曲がらないストローの別名)
・曲がらんとせんばかりのストロー(曲がらないストローの別名)
・曲げちゃいけないストロー(曲がらないストローの別名)
■々小説■
可能な限り「々」を使います。
昔々あるところに、極々平々凡々な1人の女がおりました。
「いっけない! 少々遅刻だわ!」
(物々交換で手に入れた)時計の針が示す数字を見るやいなや、
野々村カナは思わず荒々しい声をあげた。
日曜の朝8時。いつものカナなら往々にしてまだ寝ている時間だが、今日は違う。
佐々木三郎と、先々月以来、久々のデートなのだ。
月々9000円のローンで購入した58万円の羽毛布団を跳ねのけて、
壁に貼った勝新太郎先生のポスター(物々交換で手に入れた)に深々とお辞儀。
好物の坦々麺も今朝は早々に切り上げ(無論「謝々」の気持ちは忘れずに)、
早速メイクに取り掛かる。
ファンデにマスカラ、グロスは濃い目を・・・。
諸々の手順を次々にこなし、隅々まで入念にメイクを施すうち、
元々は地味な作りのカナの顔が、徐々に華々しく変化していく。
特に肌などはまるで十代のそれのように瑞々しく輝き、
翌々月に四十三歳を迎えるようにはとても見えない。
「これだけ効果があるんだもの、この9万円のファンデ(原材料:南米の木々から採取した樹液)だって、
ちっとも高くなんかないわ」
そうこうしている間にも、約束の時間は刻々と近づいてくる。
「いってきまーす!」
すると様々な人々の「いってらっしゃい!」の声が・・・聞こえるはずもなく、
弱々しい残響音が1人暮らしのワンルームに拡散し、やがて消えていった。
12月の空気は寒々しいが、それでいてどこか清々しい。
代々木駅までの道すがら、カナの脳裏に浮かぶのは過去の出来事だ。
思えば、数々の男との出会い、そして別れを繰り返してきた。
全国津々浦々の「男」という街を転々とし、行く先々で傷付き、
そして時には相手を傷付けて・・・そんな堂々巡りを散々繰り返してきた。
いいところまで行っても、結局はダメ。
言うなれば、いつまで経っても恋愛甲子園準々決勝敗退の身。
しかし、長々と続いたそんな痛々しい日々にも、近々終止符が打たれる。
つまりそれは、三郎との結婚。
確かに、年の差が気にならないといえば、それは白々しい嘘になる。
愛があれば、年の差なんて微々たるもの。
軽々しくそう口にできるほど、カナは若くない。
何しろ三郎は、若々しく見えるとはいえ、今年で八十二歳だ。
好々爺ではあるものの、関節の節々どころか関節そのものが痛いと常々言っているし、
いずれは介護等々の問題も出てくるだろう。
けれど、カナは自信満々で、興味津々で、気分も上々だ。
事実カナは、三郎になら何だって話せた。
自分の生い立ち(段々畑で拾われた)のこと、
若い頃遊び半分で入れた蝶々のタトゥーのこと、
どんなに生々しく赤裸々に話しても、三郎は渋々受け入れてくれた。
私たちは、もはや運命共同体なのだ。
否、我々は、もはや運命共同体であるのだ。
木枯らしが、葉のない木々を揺らす。
だが、寒さは微塵も感じないカナだった。
60個ちょっと使えました。