■探し物■


僕の部屋ではよく耳かきが見当たらなくなります。
自転車の鍵もよく見当たらなくなります。
筆箱もよく見当たらなくなります。
『ワンピース』第五巻もよく見当たらなくなります。
僕の中で2番手のかばんもよく見当たらなくなります。


いま全部見当たらなくなっていますので、少し探します。


クローゼットの中で、2番手のかばんが見つかりました。
2番手のかばんの中で、『ワンピース』第五巻が見つかりました。
『ワンピース』第五巻のページの間で、筆箱が見つかりました。
筆箱の中で、自転車の鍵が見つかりました。
自転車の鍵のキーホルダーを通す穴に、耳かきが刺さっていました。

■句読点戦争■


吉田くんと平野くんの間に戦争が勃発しました。
俗に言う「句読点戦争」です
戦争と言うと大げさに聞こえますが、本当は単なる喧嘩です。
「、」と「,」のどちらが好みか、または「。」「.」のどちらが好みか。
たったそれだけの理由で起きた単なる喧嘩です。


僕のところにメールで届いた2人の言い分を紹介します。


吉田くんの言い分
「平野くんの文って、読みづらいと思うんだよね。ムカつく。」


平野くんの言い分
「吉田くんの文って,読みづらいと思うんだよね.ムカつく.」


ご覧のとおり、吉田くんは「、。」派で平野くんは「,.」派です。
文章構成的に見るとまったく同じで、一見仲良くなれそうな2人ですが、
実際は会えば必ず言い争いをしています。


僕としては早くこの句読点戦争に終止符を打ってもらいたいところです。
しかしその終止符も「。」にするか「.」にするかで意見が分かれてしまいます。


ちなみに「句読点戦争」というのは吉田くん側の呼び方で、
平野くんは「ピリオドコンマ戦争」と呼んでいます。

■醤油の祈り■


何にでも醤油をかけて食べる人がいます。
友人の磯谷くんです。
磯谷くんは、冷奴やお刺身はもちろんのこと、
サラダやお好み焼きにまで醤油をかけます。
とんかつにもカレーにも、もちろんかけます。
ですが食は自由です。
個人の嗜好をとやかく言うつもりは毛頭ありません。
ただ、祈ってはいます。
「どうか磯谷くんが醤油をかけすぎませんように」
と祈ってはいます。


今日の一工夫
・「醤油」を「ナンプラー」に置き換えて読むと、タイで書かれたものっぽくなります。

■ストロー■


お店でジュースを頼んだら、曲がらないストローがついてきました。
まさかと思い確認しました。
曲がらないストローです。
念のためもう一度確認しました。
やはり曲がらないストローです。
しかし果たして本当に曲がらないストローなのでしょうか。
じっと見つめます。
なんだか曲がりそうなストローに見えてきました。
さらに見つめます。
曲がってくれそうなストローに見えてきました。
気のせいか、曲がりたがっているストローにも見えてきました。
もはや確信です。
今にも曲がりそうなストローです。
気迫さえ感じます。
今この瞬間にも曲がらんとせんばかりのストローです。
強引に曲げてみました。
曲げちゃいけないストローでした。



今日の登場人物
・僕


今日の登場ストロー
・曲がらないストロー
・曲がりそうなストロー(曲がらないストローの別名)
・曲がってくれそうなストロー(曲がらないストローの別名)
・曲がりたがっているストロー(曲がらないストローの別名)
・曲がらんとせんばかりのストロー(曲がらないストローの別名)
・曲げちゃいけないストロー(曲がらないストローの別名)

■々小説■


可能な限り「々」を使います。


あるところに、極な1人の女がおりました。
「いっけない! 少遅刻だわ!」
(物交換で手に入れた)時計の針が示す数字を見るやいなや、
村カナは思わず荒しい声をあげた。
日曜の朝8時。いつものカナなら往にしてまだ寝ている時間だが、今日は違う。
木三郎と、先月以来、久のデートなのだ。
9000円のローンで購入した58万円の羽毛布団を跳ねのけて、
壁に貼った勝新太郎先生のポスター(物交換で手に入れた)に深とお辞儀。
好物の坦麺も今朝は早に切り上げ(無論「謝」の気持ちは忘れずに)、
早速メイクに取り掛かる。
ファンデにマスカラ、グロスは濃い目を・・・。
の手順を次にこなし、隅まで入念にメイクを施すうち、
は地味な作りのカナの顔が、徐に華しく変化していく。
特に肌などはまるで十代のそれのように瑞しく輝き、
月に四十三歳を迎えるようにはとても見えない。
「これだけ効果があるんだもの、この9万円のファンデ(原材料:南米の木から採取した樹液)だって、
ちっとも高くなんかないわ」
そうこうしている間にも、約束の時間は刻と近づいてくる。
「いってきまーす!」
すると様な人の「いってらっしゃい!」の声が・・・聞こえるはずもなく、
しい残響音が1人暮らしのワンルームに拡散し、やがて消えていった。


12月の空気は寒しいが、それでいてどこか清しい。
木駅までの道すがら、カナの脳裏に浮かぶのは過去の出来事だ。
思えば、数の男との出会い、そして別れを繰り返してきた。
全国津の「男」という街を転とし、行く先で傷付き、
そして時には相手を傷付けて・・・そんな堂巡りを散繰り返してきた。
いいところまで行っても、結局はダメ。
言うなれば、いつまで経っても恋愛甲子園準決勝敗退の身。
しかし、長と続いたそんな痛しい日にも、近終止符が打たれる。
つまりそれは、三郎との結婚。
確かに、年の差が気にならないといえば、それは白しい嘘になる。
愛があれば、年の差なんて微たるもの。
しくそう口にできるほど、カナは若くない。
何しろ三郎は、若しく見えるとはいえ、今年で八十二歳だ。
爺ではあるものの、関節の節どころか関節そのものが痛いと常言っているし、
いずれは介護等の問題も出てくるだろう。
けれど、カナは自信満で、興味津で、気分も上だ。
事実カナは、三郎になら何だって話せた。
自分の生い立ち(段畑で拾われた)のこと、
若い頃遊び半分で入れた蝶のタトゥーのこと、
どんなに生しく赤裸に話しても、三郎は渋受け入れてくれた。
私たちは、もはや運命共同体なのだ。
否、我は、もはや運命共同体であるのだ。


木枯らしが、葉のない木を揺らす。
だが、寒さは微塵も感じないカナだった。


60個ちょっと使えました。